金箔加工という、もうひとつの仕事。
どいした工芸といえば、箸置きやグラスといったオリジナル製品を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、工房の仕事にはもうひとつの柱があります。それが、お客様からの依頼に応じた金箔加工 いわば —— 「箔のオーダーメイド」です。
寺社仏閣の仏具修復、店舗の看板や内装への金箔施工、記念品や贈答品への箔押し、そしてこの宝船のような特注の置物制作。「こんなものに金箔を貼れますか?」という一本の電話から始まる仕事も少なくありません。素材も形も大きさも毎回違う。だからこそ、職人としての引き出しの全てが試されます。
宝船——曲面と細部の連続。
宝船は、日本で古くから縁起物として親しまれてきた意匠です。七福神を乗せ、財宝を積んだ帆船は、商売繁盛や家内安全の象徴。この宝船の制作依頼を受けたとき、まず考えたのは「どう貼るか」でした。

船体は一見シンプルに見えますが、実際には曲面の連続です。船底の緩やかなカーブ、船縁の反り返り、船首から船尾にかけての微妙なねじれ。さらに甲板には帆柱が立ち、船内には板目の段差がある。平面であれば金箔を一枚ずつ並べていけば済みますが、これだけ複雑な立体となると、まったく別の技術が必要になります。
一枚ずつ、呼吸を合わせて。
作業は二人一組で行いました。一人が竹製の箔箸で金箔を持ち上げ、もう一人が対象の面に接着剤を塗る。金箔は厚さ 1 万分の 1 ミリ。空気の流れだけで破れてしまうため、エアコンを切り、窓を閉め、呼吸すら気を遣いながらの作業です。白い手袋をはめた指先で、箔を一枚載せる。綿で上から軽く押さえ、曲面に密着させる。次の一枚は、前の箔と数ミリだけ重なるように位置を合わせる。この繰り返しを、船体全体に対して何百回と行います。一枚貼るごとに、金色の面積がわずかに広がっていく。気の遠くなるような作業ですが、焦ればすぐに箔が破れ、やり直しになります。
特に難しいのが、船首の曲面と、船縁の鋭角な折り返し部分。平面用に裁断された箔を、三次元の曲面に破れなく貼るには、箔をわずかに引き伸ばしながら馴染ませる技術が必要です。
力の加減は手の感覚だけが頼り。この工程だけで丸一日を費やすこともあります。
宝飾部分 もうひとつの —— 山。
船体が完成した後に待っていたのが、船首に取り付ける宝飾の装飾品です。米俵や打ち出の小槌、珊瑚や巻物といった縁起物が集まった造形は、船体以上に凹凸が激しく、入り組んだ隙間にも余すことなく箔を施す必要がありました。
ここでは通常の箔箸に加えて、細い筆を使い、小さく切った箔を一片ずつ押し込んでいきます。ルーペを使いながらの作業も珍しくありません。根気と集中力が問われる工程ですが、完成したときの達成感はひとしおです。
完成 金 —— 色の船出。
すべての面に金箔を施し終えた宝船は、照明の下で圧倒的な存在感を放ちます。どの角度から見ても途切れることのない金色の表面。近づいて見ると、箔の重なりが生む微細な段差が光を複雑に反射し、のっぺりとした金色ではなく、深みのある輝きを見せます。これは手貼りでしか生まれない表情です。
この宝船は、どいした工芸が持つ金箔技術の集大成ともいえる作品です。日常使いの小さな箸置きから、大型の特注品まで——扱う対象の大きさは違っても、一枚の金箔に向き合う姿勢は変わりません。金沢で四百年以上受け継がれてきた箔の技術を、今の時代に、今の依頼に応じた形で届けること。それが工房としてのどいした工芸の仕事です。
特注・金箔加工のご相談。
どいした工芸では、素材や形状を問わず、金箔加工のご相談を承っています。木、金属、陶磁器、樹脂、紙——あらゆる素材への金箔施工が可能です。「こんなことはできますか?」という段階からでも、お気軽にお問い合わせください。サイズ、数量、納期に応じてお見積もりいたします。